承継 ~『ウマ娘』の因子厳選とハック&スラッシュの共通項について~
序論
『ウマ娘』には「因子」と呼ばれる要素が存在しており、育成を開始するにあたって過去に育成したウマ娘の「因子」を受け継ぐことが可能だ。
因子は育成の終了時に決定される。しかし強力な因子(いわゆる3因子)は排出率が低めに設定されている。
ゆえに、トレーナーたちの当面の目標はステータス関連の3因子を求めて育成を繰り返す、ということになる。
今回の記事では因子の厳選について考えてみようと思う。
因子厳選とハック&スラッシュ
良質な因子を求めて育成を周回する行為は私にはハック&スラッシュのそれに見える。
ハック&スラッシュ(以下ハクスラ)とはモンスターを倒してアイテムや装備を入手、それでプレイヤーキャラクターを強化していくゲームジャンルのことだ。
もちろんウマ娘には倒すべきモンスターは存在せず、トレーニングとレースを繰り返してURAファイナルズの優勝を目指すというのがゲームの目的となる。
しかしながら、”良い因子”を求めて周回を繰り返す、その一点だけを見つめると因子ガチャの本質はハクスラにあるのではないか、と思うわけだ。
因子ガチャは結構な苦行だ。
そもそも不必要な因子もかなり多く含まれてるにも関わらず1~3までのうち最終的に必要なのは実質的に3の因子だけ。
育成終了時のパラメータがBランク以上なら3因子が排出される可能性が生まれるらしいのだが、つまりB以上のパラメータが多ければ多いほど狙った3因子の排出率は下がることになる。
さらに突き詰めていくと複数の3因子を掛け合わせた所謂"9因子"が必要になってくるので要求される因子の条件はもっと厳しいものになる。
苦行であると先述した通り因子には問題点もある。
次の項目でとあるゲームに接続して因子厳選の問題点について述べてみようと思う。
『創世の賛歌』
『Anthem』はBioware社から発売されたルートシューター。
神による創造が未完成で終わった世界でプレイヤーはフリーランサーと呼ばれる傭兵として飛行能力を備えた強化外骨格「ジャベリン」を纏って戦う。
…しかしながら『Anthem』はお世辞にも成功したゲームとは言えなかった。
ハクスラにおける強みを殺すゲームデザインだったのがひとつの問題点だったように思う。
なぜわざわざ『Anthem』の話を持ち出してきたのか。
それは『Anthem』の大きな問題点のひとつが”意味のないインスクリプション(刻印)”にあったからだ。
順を追って説明しよう。
インスクリプションとは武器などに「火属性+○○%」などのランダムで付与される追加効果のことだ。
しかしながら、氷属性のスキルに「物理ダメージ+○○%」といった意味のない追加効果がつくことがあり物議を醸していた(この仕様は後のアップデートで修正され、無意味なインスクリプションがつかないようになった)。
『Anthem』も数あるルートシューターの例に漏れず最終的には「ストロングホールド」と呼ばれるエンドコンテンツ(高難易度コンテンツ)の周回で武器などのアイテムを入手することになる。
私には『ウマ娘』の因子ガチャにおいて同じようなことが起きているように見える。
具体例を挙げよう。
このグラスワンダーのステータスは根性以外がBランクとなっている。
3因子の排出にはBランクが必要なのはさっき述べた通りだが、この条件だと3因子が出るパラメータは4種類。こうなるとスタミナの9因子を得ようと思った時邪魔になる。
距離適性や脚質もおそらくAだったら因子の抽選が始まる(俗に言う赤因子)。パラメータの因子(こちらは青因子と呼ばれる)と干渉するわけではないが、赤因子も上を目指すに越したことはないし、芝の適正や距離などもごちゃまぜなのに対して赤因子は1つしか出力されないので拘り始めると泥沼と化すのは明白だ。
つまるところ、完全に不要というわけではないにせよ狙った因子以外のものが均等に排出されてしまうのが因子ガチャを沼たらしめている主な要因である。
要するに、ここで私が言いたいのは『ウマ娘』における「育成」が『Anthem』における「ストロングホールド」、”不要なインスクリプション”が”闇鍋の赤因子”にあたり、ここに共通項が見出せるのではないか、ということだ。
次の項目では『ウマ娘』そのものの目的の再考を通して因子ガチャの所感を述べてみる。
『ウマ娘』の目指すさき
『ウマ娘』における実質的なエンドコンテンツは「育成」でも因子ガチャでもなく「チームレース」だ。
チームレースは育成した「殿堂入りウマ娘」で距離ごとにチームを組み他のプレイヤーのチームとレースさせるゲームモードだ。
もちろんチームレースよりも「育成」そのものがゲームのメインコンテンツであることを私も否定するつもりはない。
が、育成したウマ娘の晴れ舞台を改めて見たいかどうかと問われればもちろん見たいと答えるのがトレーナーとしての矜持だろう。
チームレースで勝つためには育成で強いウマ娘を育てなければならない。
そして、強いウマ娘の育成には強力な因子が必要不可欠だ(もちろんサポートカード等々の大量のリソースも同じく必要になる。だがそれは因子を欠いていいという話ではない)。
何のための周回なのかは重要だ。
チームレースに勝ってランクが昇格すれば大量のリソースを手に入れることができる。
しかしながら、やはり『ウマ娘』のメインコンテンツは「育成」なのだ。
それはチームレースでの勝率が必ずしも重要でないことを意味する。
最終的にトレーナー達が目指す場所としての「チームレース」というのは個人的にはいい塩梅であるように思う(実際昇格で貰えるリソースというのもかなり馬鹿にならない量だ)。
帰結
ここまで書いておいてなんだが、実際のところ「育成」が面白いから因子を厳選するインセンティブが生まれるし、ゲームを含むコンテンツに人がついてくるのだと思う。
コンテンツの面白さは正義だ。
『ウマ娘』はメディアミックス作品の質も押し並べて高く、そもそも競走馬そのものの魅力と相まってとにかくコンテンツ力がすごい(ナマモノを扱う作品であることだけが唯一、一抹の不安を覚える。『ウマ娘』は薄氷の上なのかも知れない)。
因子の厳選がたとえ困難な作業であっても強いコンテンツに人は集まるのだ。
『ウマ娘』のさらなる発展を願って一旦この記事の締めとしようと思う。
それでは今回はこのあたりで。